日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (080)

Q:

コウモリの超音波領域の声を聴くバットディテクタというのがあるそうですが、これを使うと、コウモリが餌をとるときの声や、コウモリの親子が会話しているのが聴けるでしょうか?

A:

はい,バットディテクタというコウモリの超音波音声を聴くための小型の機械が市販されています。20〜30年前にはまだ特注品に近い製造状況でしたが,10年前あたりから,急速に入手し易くなりました。背景には,ヨーロッパやアメリカでコウモリの保護や啓蒙活動が盛んになり,それに付随したコウモリウオッチング人口の増加があると思われます。使われるマイクロホンの特性や超音波入力を可聴音へと変換する様式により,ディテクタにも様々な型がありますが,汎用されているのは,10〜180kHzの周波数帯をダイヤルでチューニングできる型です。変換された音自体は本来のパルスにはほど遠いものですが,超音波をほぼ同時に可聴音に変えてくれるので,超音波のイベントレコーダとして,超音波音声と行動との関連を対象とする研究には威力を発揮します。市街地でよく見掛けられるイエコウモリの採餌の様子をこのディテクタで聴くと,「チュッ,チュッ」という探索期の規則的なパルスが,コウモリの急旋回と共に「チチチチ」とパルス間隔が縮まり,やがて「ズッ」という最終期に特徴的な音声へとめまぐるしく変わる狩の様子を聴きとることができます。コウモリは多くの種に分かれているので,エコーロケーション用に出す超音波のパルス波形も多彩です。また,種によっては,エコーロケーションのフェイズ(探索期,接近期,終期)によって波形を大きく変えるものや,かすかな声しか発しない種など様々です。原生林の夜,月明かりに目を凝らし,ディテクタに耳を澄ますと,木立の間をくるくると飛びまわるもの,山道を行きつ戻りつするもの,樹冠を高速で飛びすぎるものなど,森のコウモリ達の生き生きとした狩の様子をシルエットで観察することができます。もちろん,コウモリ親子の会話もディテクタで詳細に聴くことができます。ディクタが無かった昔,洞窟の地面やマイクの近くに置いた子が母コウモリに抱き取られるのは,子の可聴音を母が識別して回収するのだと簡単に考えていました。回収に先立って,母-子の間に超音波音声を交えた頻繁な鳴き交わしが行われていたことが分かったのは録音テープを解析してからのことでした。

松村澄子(山口大学医療技術短期大学部)