日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (084)

Q:

音響測定での録音にMDが使えると便利なのですが,MDに使われているATRACの方式だとデータが間引かれていると聞いたので耳で聞く程度のモニタにしか使っていません。分析には,使えないのでしょうか?

A:

MDで利用されているATRACやネットワーク機器などで利用されているMP3(MPEG 1 Layer 3)は,聴覚特性を利用して高能率符号化を実現しております。具体的には,ATRACの場合,もともとCDと同じ44.1kHzサンプリング,16bit量子化したPCM信号(1ch当たり706kbps)を,146kbpsに圧縮して記録しております。符号化に際して,*最小可聴源やマスキング閾値以下の知覚できない信号を符号化(記録)しない。*量子化雑音が,知覚不可能なレベルであれば,その発生を許容する。の二つの条件のもとで,規定内の情報量に圧縮します。このことは,MDに入力した信号とMDから再生される信号が,一致する保障がない不可逆な符号化であることを意味します。例えば,周波数1kHzの方形波と,これをMDで録音再生した波形のパワー・スペクトルを比較すると,図-1のようになります。大きなパワーを持つ成分にはさまれた信号が,観測できなくなっていることがお分かりいただけると思います。上記のように,MDを録音器として使用する場合,従来のDATなどのPCM録音器になかった特性が加わることを把握した上で使用する必要があります。具体的には,*デモンストレーションなど人間が聞いて判断する場合*マスキング閾値以下の信号成分が結果に大きな影響を与えないことが事前に分かっている場合など聴覚との対応を念頭においた分野では,MDを利用できる場合があります。しかし,一般的な物理計測には,従来のPCM録音器を用いるべきでしょう。

宇佐川 毅(熊本大学)