日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (085)

Q:

音波が吸音されると熱エネルギーに変わりますが,非常に膨大な音響エネルギーが吸音されると地球温暖化に影響するようになるのですか?

A:

音源の音響パワーレベルは0dBが10(-12)Wですから,120dBの音源は1Wのエネルギーを持っています。この音源から発生した音波は伝搬する過程で拡散して,聞こえなくなるまで減衰しますが,その音波のエネルギーの大部分が熱エネルギーに替わって,地球環境(大気や水及び土壌など)に吸収されます。従って,音響パワーレベルが120dBの音源が存在すると,地球環境に1Wの熱エネルギーを加えることに相当します。膨大に強力な音源といっても人工的に可能な音源の音響パワーレベルはロケットエンジン近傍の約185dBであり,約3GWのエネルギーに相当します。300機のロケットが打ち上げられると,その放射音だけで約1,000GWの熱エネルギーを地球環境に与えることになります。では,このような音響による熱エネルギーが地球温暖化に影響するのかどうかを考えてみましょう。音のエネルギーと地球環境のことに関して,兄弟学会である日本騒音制御工学会の会誌「騒音制御」24巻3号で,安岡正人(東京理科大学)先生が「地球環境的音源考」と題して解説していますので,そこから多くのデータを引用します。現在,人間の活動により地球全体で消費しているエネルギーは2*10(4)GWですから,これは300機のロケットの放射音エネルギーの200倍です。一方,太陽から地球全体へ照射される熱エネルギーは1.2*10(8)GWです。地球環境を加熱するエネルギーは太陽からの照射エネルギーがほとんどであり,人間の活動によって発生する熱エネルギーはその1/10,000程度です。従って人工的な膨大で強力な音源が多数あっても,それらの音源から放射される音響エネルギーは太陽から地球環境へ入ってくるエネルギーの0.01%にもなりません。恐らく膨大で強力な音源が多数あっても,地球温暖化に直接影響することはないでしょう。さて,地球温暖化の問題に対して,その回避のための国際的な対策や政策が話し合われて,実行に移されております。地球温暖化の主原因は,地球環境に入力される熱エネルギーではなく,地球を取り巻く大気中に温室効果ガスが増加することによる,地球環境から宇宙への熱エネルギーの放出が減少していることです。地球環境への熱エネルギーの人為的な放射を低減することも必要ですが,それ以上に大気中への温室効果ガスの放出を削減することが大事です。温室効果ガスの主要成分である大気中の二酸化炭素は,化石燃料を主たる動力エネルギー資源にして社会活動や産業活動を進めている現状においては,動力エネルギーの消費によって増加します。よって,動力エネルギーの利用や化石燃料の消費を低減することが,地球温暖化の防止に有効に作用します。一般的な音響エネルギーは僅かな熱エネルギーですが,音を作り,音を放射するためにはその音響エネルギーの数倍以上の動力エネルギーが消費されます。また,騒音が発生するとその防止対策のために,騒音源の音響エネルギーの1,000倍近い動力エネルギーが費やされます。従って,騒音が発生しないように音源部の発生現象を制御したり,無意味に過大な音量の音を放射しないようにすることは,間接的ですが地球温暖化の防止に役立つことになります。

丸田 芳幸(荏原総合研究所)