日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (009)

Q:

最近自動ピアノはよく見ますが他の楽器の自動演奏はないのですか?

A:

現在楽器の自動演奏装置で商業的に成り立っているものはピアノと電子楽器でしょう。ピアノでは家庭用の自動演奏装置がありますし,電子楽器においては音楽作品を制作する上でコンピュータを使った自動演奏は無くてはならない道具になっています。ギターやバイオリンの自動演奏装置,あるいは手回しオルガンなどは時折見かけることはありますがあまり一般的ではありません。今世紀の初頭にはピアノ以外の自動演奏装置も多数作られていたようです。これらのことは本誌のVol.41,No.6の自動演奏の特集に詳しく記載されています。では現在何故ピアノや電子楽器以外の楽器では自動演奏が一般的ではないのでしょうか。自動演奏の目的の一つは演奏の再生です。演奏の再生といっても単に曲が鳴ればよいというものから名人の演奏を再現するものまで幅があります。ロボットの性能を示すなどの目的に自動演奏が使われる場合は前者でも許されるのかもしれません。しかし現在のように録音が発達した状態では,演奏を正確に『生』で再現できるということが自動演奏の大きい存在理由になります。
  まず楽器の種類によって自動演奏の作り易さがどのように変わるかを技術的に考えてみましょう。楽器というのは音楽情報を演奏によって具体的な音響情報に変換する道具です。楽器演奏における制御・音響情報の流れを考えると,人間?発振部?共鳴部?音響放射部となります。この流れの中で‘?’は情報の流れにフィードバックがあることを表しており,発振部以降が楽器になります。放射された音響を聴いて人間が演奏情報を変化させるフィードバックもあります。人間と発振部の間の制御情報を記録して再生すれば自動演奏ができますが,電子楽器のようにこの部分のフィードバックが無ければ自動演奏は容易になります。その上電子楽器ではこの制御信号が MIDI に規格化されていますので一層自動演奏が容易になります。ピアノなどの鍵盤楽器は,弦楽器や管楽器などに比べてこのフィードバックが小さく,従って自動演奏も作り易いことになります。一方弦楽器や管楽器,特に金管楽器ではこのフィードバックが大きく人間自体が楽器の一部となっており,自動演奏は難しくなります。
  また,ピアノは鍵盤を弾く強さ,あるいはハンマが弦を叩く際の速度でほとんど音が決まってしまいます。他の弦楽器や管楽器に比べて制御情報が単純なわけで,このことからも自動演奏が作り易いと言えます。とは言ってもピアノの打弦装置は木や革を精巧に組み合わせてできていて調性が狂うと正確な演奏が再現できません。また,ハンマも音域によって大きさが異なっていたり,弱音と強音では発音するまでの時間も異なったり,正確に演奏を再現するにはいろいろなノウハウが必要です。それらを解決してピアノの自動演奏の精度は非常に上がってきています。 次に自動演奏の音楽的な価値を考えてみましょう。ピアノは1台で演奏できる曲がたくさんあります。従って1台のピアノの自動演奏装置には掛けることのできる曲が多いという意味で存在価値が大きいと言えます。電子楽器やギターでも同様のことが言えるでしょう。しかし他の弦楽器や管楽器などでは何本かの楽器が集まって一つの曲を形作るのが普通です。従って管楽器や弦楽器一本のための自動演奏装置では音楽的に存在価値が低いものになってしまいます。 弦楽器4本のための自動演奏装置ですと弦楽4重奏曲のレパートリーは多いので価値は出てきそうです。しかしそれができたとしてもある程度の質の弦楽器は高価なためそれを4本も自動演奏装置に組み込むことはコストが掛かり過ぎて実際的ではありません。これらのことから自動演奏装置はピアノと電子楽器が主になっているわけです。

加藤 充美(くらしき作陽大学)