日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (090)

Q:

騒音計にはFとSの二つの時間重み特性がありますが,どのように使い分けたらよいのでしょうか? もし使い方を間違ったらどのような値の違いがあるのでしょうか?

A:

我々が取り扱う音響・振動の信号は,時間的に変動していますが,この信号の物理量として実効値(Root Mean Square)を求めることが多く行われています。その方法の原理は英語名に示されるように,信号を2乗して,(積分)平均を行い,開平するというステップをふみます。更に対数化・レベル表示して〇〇dBというように用いられています。このとき,信号の周期性を考えて適切な平均時間を設定することが重要で,実効値として一定の値(直流と等価な値)を得るためには,周期性の信号であれば1周期(あるいはその整数倍)の時間,あるいはもっと長い十分な時間の平均化を必要とします。もし,ランダムな定常信号であれば,平均化時間は無限大にとらないと一定値にはなりませんが,これでは実用にならないので,ある誤差が残ることを許して適当なところで打ち切りとします。あるいはこの平均化時間を,観測対象となる現象に合わせて設定して,長時間の積分平均を行うことで,LAeq:等価騒音レベルを測定しています。
 質問のFやSはこの平均化を行う際の平均化時間の長さで,積分平均を時定数τの1次の積分回路(ローパスフィルタ)で行うとしたときに,F:τ=125ms,S:τ=1sに相当します。これらの使い分けは,本来十分な平均化をするのが目的ですからSで使用すればよいのですが,現象によってはそんなに時間をかけなくても十分な平均化が行える場合にはFを使えばよいでしょう。これらの見分け方は,値のふれ幅が概ね3dB以内となるような平均化時間の選び方がよいと思います。従って,平均化時間は本来はいろいろな選択ができてその中から適切なものが選べる方式の測定器(measuring amp.)を使用すべきと思いますが,それらのうちの2種類だけが騒音計に用意されています。測定目的の異なる振動計や衝撃的な騒音を測定する場合には時定数が0.6sや35msなどとした機器も使われています。
 FやSだけでなく時間重み特性の使い方は,騒音レベル測定方法(JIS Z 8731)や遮音性能の測定,床衝撃音の測定方法(JIS A 1418)などの測定規格や,その測定量を評価する方法によって決められている場合があり,その規格にあわせた使い分けが必要です。本来,定常的な信号を平均するための時間重み特性なのですが,衝撃性の騒音・単発的に発生する信号に適用する場合には,特に注意を払う必要があります。これらの衝撃性の信号に対しては,その現象をすべて含む2乗積分値を測定・表示すべきで,この考え方から単発騒音暴露レベルが定義され,用いられています。
 しかし,完全な2乗積分器の簡易的な代用として,あるいは,ある時間重み特性の最大値が聴覚特性と相関があるということから,“時間重み特性Fの最大値”や“時間重み特性Sの最大値”が測定方法として規定されています。(従来,しばしば“ピーク値”といわれてきましたがこれは瞬時値を表す用語です。)衝撃性信号に対するF及びSの最大値は,その衝撃信号の継続時間や波形によって異なりますが,継続時間が125msよりも十分短い場合にかぎり,理論的にはFの最大値はSの最大値より9dB大きな値となります。

矢野博夫(千葉工大)