日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (092)

Q:

低周波音が健康に与える影響が問題になっているという新聞記事を見ました。今どのようなことが分かっているのですか?

A:

最近低周波音に関するテレビ放送が出るようになり,特に環境省が今後の調査研究課題として取り上げたという記事が出て関心が高まったようです。
 我が国の低周波音の問題は,昭和40年代から取り上げられるようになって,環境庁も昭和51年から騒音振動分野の主要研究テーマとして調査研究を進めました。まず,全国的に問題になっていると思われた現場の実態調査を行い,苦情を分類しました。これに関連して,低周波音暴露による人間の生理的な反応(心拍,血圧,ホルモンの分泌,睡眠影響,脳波誘発電位),心理的な反応を,更には建具への物的な影響などの実験を行いました。環境庁は昭和59年に一応の結論として,生活環境で存在している低周波音のレベルでは,明確な生理的な影響を示す結果が得られなかったと結論付けました。ただし被験者の年齢幅はありましたが健常者で,暴露時間は短時間暴露という条件でした。
 しかし,その後もいろいろな場所で低周波音のためではないかという苦情が出てきて,調べてみると原因が明確でない場合の不安がつもり重なって苦情になっている場合と,全く関係のないことを低周波音のせいと決めつけて騒いでいる場合とがあることも分かりました。
 人間は刺激に対して非常に幅の広い反応を示すものです。同じ刺激であってもその人の体調や立場,事象の発生している時間帯などによって同じ判断がなされるとは限りません。これは低周波音の事に限らず,感覚公害と言われている騒音の場合も振動の場合もあります。また,影響という語句は,なにがしかの悪いというイメージがついて廻るために,反応が微量な時に,これを何かしらの影響があるという人と,このくらいのことは日常生活の中のことと気にしない人とに分かれます。現在のところ,今までの調査では,短時間の暴露実験では明確ではないという結論になっていますが,長期間の暴露でどのようになるかということは実験もありませんし,結論付けることは難しいというのが現状です。これを影響がはっきり現れるまで実験をしようと思うと,正に人体の生体実験になってしまうので,回復が明確でない実験ができるわけがありません。そのため,しっかり現場を計測値で捉えて,苦情や反応を偏りのない判断ができる資料で集めようというのが,現在環境省が始めた統一された測定器を用いた現場調査です。今まで多くの現場を見て参りましたが,鼻血が出る,ネズミが死んだなどという現場でも,その事象は事実なのでしょうが原因を間違えている場合もありました。従って現在は,我々の周辺にある程度の低周波音では,長期暴露の健康被害は明確でないという状況です。

時田保夫