日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (094)

Q:

光のフォトンと同じように音波にはフォノンがあると聞きました。フォノンを意識するのはどのようなときでしょうか。また,フォノンという用語を使ってみたいのですが,超音波をフォノンと言い替えてもよいのでしょうか。

A:

最初に大胆にもお答えしてしまいますと,もはや「フォノン」という語の使い方はイメージによるといえます。特に確固とした定義があるわけではありませんので,ご自由に使っていただいて結構です。現在,頻繁に使われている例としては,なんとなく高周波の超音波である,非常に微弱である,あるいは物性研究に用いられている,といった場合が多いようです。
 とはいえフォノンという用語を使う側にもそれなりの歴史的流派があります。そもそもは振り子のように振動する自由度を量子力学的に扱うと(調和振動子と呼ばれます),そのエネルギーがとびとびの値をとる,という事情から発しています。つまりフォノンは1個,2個と数えられるわけです。しかし実際にフォノンの数を数える必要が生じる,難しく言うと「量子統計性が問題になる」のは極めて温度の低いとき,例えば1GHzのフォノンについて絶対温度で0.04度という極低温の場合です。(フォトン=光子の場合は周波数がべらぼうに高いために,常にこの量子統計性を考えなければなりません。)
 次に固体,特に結晶を研究する目的で用いられる場合です。結晶は原子が整然と並んだ周期構造を持っていることはよくご存知でしょう。フォノンも媒質の粗密の周期構造ですから,波長が原子の間隔と同程度になってくるといろいろとややこしいことが起こり,私たちになじみの深い超音波の伝搬とは異なったものになってきます。とはいえ,こういった現象が現れるのも非常に高周波(一般的にはテラヘルツ以上)の領域です。ついでに付け加えますと,固体物理の世界でフォノンという場合には,超音波の延長である音響フォノンのほかに,交互に並んだ異なる種類の原子が逆位相で振動する光学フォノンというものもあり,なかなか侮れません。いずれにせよこのような「フォノン」が登場するのは物理実験施設の中だけということになります。
 更にもうひとつ,熱揺らぎによって生じる弾性波をフォノンと呼ぶ流派があります。物質中の分子や原子は熱運動によって常に動いており,そのランダムな運動が物質中をあちこちに伝搬するフォノンを生み出します。これを人工的に励起される超音波と区別して,サーマルフォノン,あるいはインコヒーレントフォノンと呼ぶこともあります。最近の光測定技術の進歩により,この微弱な熱フォノンを精度よく調べることができるようになりました。
 いずれにせよ「フォノン」という言葉には,これまでの超音波技術を超えた未知なる領域に対する希望と期待が感じられます。例えば「メディカルフォノン」や「パワーフォノン」など,どんどん勝手に造語して,フォノンの未来を開拓してゆきましょう。

酒井啓司(東大生研)