日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (098)

Q:

最近ディジタル加入者線を使った高速のインターネット接続が普及しているようですが,電話回線を利用して高速データ通信を行うしくみを教えてください。

A:

DSL(ディジタル加入者線)は,既設の電話回線(メタル線)を使って,Mbps(メガビット/秒)オーダの高速データ伝送を格安に提供する技術の総称です。日本国内のサービスは,2001年に本格的に始まり,この1年間で累積加入者数が10倍以上に急増し,2001年末には140万加入になると予想されています。
 DSLには,HDSL, SDSL, ADSL, VDSLなど,いろいろな種類がありますが,現在最も普及しているのは,ADSL(Asymmetric DSL)であり,情報伝送速度は,上りが512〜640kbps,下りが1.5〜9Mbpsと非対称であり,従来の加入電話モデムやISDNに比べ数十倍〜100倍以上高速です。自宅と電話局の距離が短ければ(2.7km以下),最大9Mbps(下り)の伝送ができますが,距離が長い場合や,回線雑音が混入すると伝送速度が遅くなります。距離を1.5kmに限れば,10Mbps以上の伝送も不可能ではありません。
 電話回線の伝送減衰は距離及び周波数と共に増大しますが,20dB/kmくらいまでの減衰を許せば1MHzくらいまでの高周波帯域を利用できます。従来のアナログ電話では,4kHz以下,ISDNでは約380kHz以下のみを使っていました。シャノンの情報理論によれば,信号のスペクトルをS,雑音(漏話等を含む)のそれをN,周波数帯域の下限,上限をW1,W2(Hz)とするとき,回線の伝送容量は次式で与えられます。
  
 すなわち,SN比が大きい周波数帯域ではより多くの情報が伝送できます。仮に利用帯域幅を(1MHz),SN比の平均値が127(21dB)とすれば,伝送容量は7Mbpsとなります。仮に理想的なモデムが実現できたとすれば,7Mbps以下の伝送速度であれば,符号誤り率をいくらでも小さくできることになります。
 現在ADSLで広く用いられている変復調方式は,DMT (discrete multitone)という多数搬送波の一種です。下り回線では,音声帯域で使っていない高域(138kHzから1,104kHz)を4.3125kHzごとに224個の帯域に分割し,それぞれの帯域のSN比に応じて伝送情報を最適に配分して帯域毎に並列に伝送します。同様に上り回線では32個の4kHz帯域を使います。各帯域内の変調方式は,多値QAM(直交位相振幅変調)が用いられています。このようにたいへん複雑な変復調方式を実現するために,FFT/IFFTによる変復調,回線等化,タイミング回復,Reed-Solomon 符号化,Viterbi最尤復号化,など高度な信号処理が使われています。

(板倉文忠:名古屋大学)