研究分野
一言に音響と言っても、人の声や音楽のように身近な音だけでなく、人には聞こえない超音波や、私たちの生活環境に影響を与える騒音など、対象は多岐にわたります。日本音響学会では、常設の9つの研究分野に加えて、分野横断的な音響教育や、時限付きの調査研究分野を設けています。
研究分野
音声(Speech)
音声の認識・合成・分析・理解に関する情報処理技術を対象とする分野です。音声および言語の構造に基づくモデリングに加え,音声を通じた検索・対話・翻訳などの応用も含みます。人と機械の自然な音声インタラクションの実現に向けた基盤技術を扱います。
聴覚(Psychological and Physiological Acoustics)
音が耳に届いてから脳で統合・知覚・認識されるまでの聴覚機能について,生理・心理・計算論の観点から基礎的理解と応用を目指す分野です。聴覚末梢から中枢に至る処理やラウドネス・ピッチ・音色などの知覚属性,聴覚情景分析や時間・空間知覚,さらに感覚間統合や行動との関連も対象とします。
聴覚・音声(Speech and Hearing)
音声の知覚と生成における感覚情報処理および発話制御の特性や機能,さらにその神経・生体メカニズムに関する基礎的理解を対象とする分野です。心理物理実験,脳活動計測,モデリングなどを通じて,音声知覚や生成過程,感覚統合の仕組み,聴・視・触覚と発話運動を含む感覚−運動連関(感覚フィードバック・スピーチチェイン)を探究します。
騒音・振動(Noise and Vibration)
環境や機械などの騒音・振動を対象とする分野です。計測・分析・評価・予測・制御など,基礎から応用まで様々なテーマを対象としています。各テーマに特化した研究,さらには横断的な研究を通じて,現在・将来の社会における静穏な環境の創出に貢献します。
建築音響(Architectural Acoustics)
建築空間における音の伝搬・遮音・吸音などの物理的解析と制御,ならびに人間の聴覚的・心理的評価の双方を対象とする分野です。快適かつ機能的な音環境の実現を目指し,測定・分析,理論・数値解析,材料特性,設計,評価などを扱います。
電気音響(Electro-acoustics)
電気音響や応用音響に関する科学的・技術的な研究を対象とする分野です。マイクロホン・スピーカ・センサ等を備えた電気音響機器,音場収録・解析・再生・制御等の空間音響,さらには音源分離,雑音・残響除去,音源定位・到来方向推定等の音響信号処理や音響応用などを扱っております。
音楽音響(Musical Acoustics)
音楽音響研究委員会は音楽に関係のある音,演奏音や歌声を生み出す仕組みや技術,さらには演奏音の源である楽器の製作技術,そして音楽演奏,作曲などを研究対象にしています。基礎となる学問分野はかなり広く,物理学・音響学・心理学を基盤に,音楽学や情報処理など多分野にわたる学際的研究を行なっています。
超音波(Ultrasonics)
超音波の基礎から通信的・動力的応用などに関連するすべての課題を取り扱う学際性の強い分野です。医用超音波,超音波スペクトロスコピー,超音波計測,強力超音波,弾性表面波デバイス,圧電材料と圧電デバイス,超音波非破壊評価,水中超音波,非線形音響等の広範な分野を探求します。
音声コミュニケーション(Speech Communication)
音声言語の発達・障害・対話・支援など,実社会における音声の役割を対象とし,その理解に基づく応用と実践を探る音声科学の領域です。音声生成・知覚,音声学・音韻論,言語獲得,認知心理学などの知見に加え,福祉・法科学・医療との連携や技術応用を通じて,音声コミュニケーションの向上に貢献します。
音響教育・調査研究分野
音響教育(Education in Acoustics)
音響学に関連する教育を対象とする分野です。教授法,教育ツール,教育システムなどに関する工夫事例や有効性の検討手法,問題提起なども含みます。また,音の可視化やシミュレーション,サウンドスケープや音響学の歴史などについても扱います。
道路交通騒音(Road Traffic Noise)
実用的な道路交通騒音の予測計算方法の開発を目的に,1974年以来,継続的に調査・研究を行っています。本予測モデルは,我が国における道路環境影響評価の技術手法にも採用され,時代とともに変化する道路インフラや交通流などにも対応できるよう各種課題に取り組んでいます。
音のデザイン(Sound Design)
音のデザイン調査研究委員会は,様々な分野に関係する音のデザインの研究を,理論的なところから実践的な研究まで幅広く包括的に扱う委員会です。調査研究を行い,「音のデザイン」の必要性,可能性,将来性などを世の中に発信していきます。
非常用屋外拡声システム(Advancement of Emergency Mass Notification Sound Systems)
非常用屋外拡声システム調査研究委員会は,災害時に屋外にいる人々へ避難指示や警報を伝える非常放送を対象として調査・研究を行っています。「聞き取れる」だけでなく「避難行動につながる」放送の実現を目指し,得られた知見を学会規準の策定や公開を通じて社会実装していきます。
軟骨伝導(Cartilage Conduction Hearing)
耳はマイクのように音を受け取るだけでなく,スピーカのように音を放射する機能も備えています。当委員会では,耳軟骨の振動によって耳内部に放射される軟骨伝導音を調査・研究し,補聴器やイヤホンなどへの応用を通じて,より円滑なコミュニケーションを支援しています。
高臨場感オーディオ(High-Reality Audio)
音楽や映像音響作品などのコンテンツ制作や再生における音響技術を研究対象とします。3Dオーディオやマルチチャネル音響,音響信号処理,符号化,音場再現技術,レンダリング技術,聴覚技術などを通じて,臨場感や没入感のある聴取体験の実現を目指します。音質評価,音像やアンビエンス音の制御,オブジェクトベース音響やシーンベース音響などの技術も含まれる領域横断型的な分野です。
スポーツ音響(Sports Acoustics)
スポーツ音響調査研究委員会は,「音響学とスポーツ」分野の研究者や教育者が集う場です。音響学の新領域を開拓し,研究成果を世界へ発信するとともに,日本のスポーツ競技のさらなる発展に貢献することを目指しています。
アコースティックイメージング(Acoustic Imaging)
「音でみる」,「音をみる」ことを対象とする分野です。音や音波の表現手法,映像化手法,可聴化手法ならびにそれを実現するためのデバイス技術,音響測定技術,センサとしての音波の利用,「音を知る」ことに関する新しい試みや新しい考え方を扱います。